COLUMN 05

シェイクスピア劇・死者数ランキング
——悲劇は何人殺すのか

集計と、死因別アワードと、少しまじめな考察

悲劇は人が死ぬ。では、シェイクスピアの悲劇はいったい何人死ぬのか。今回は不謹慎を承知で、全作品の死者数を数えてみる回だ。

先に集計ルールを決めておく。数えるのは名前(または役名)のある登場人物が、劇の進行中に死ぬケース。開幕前の死(ハムレットの父など)や舞台外の死も、劇中で報告されれば数える。そのかわり「戦闘で兵士多数が死亡」のような群衆はカウント外。この手の集計は研究者や愛好家の間でも数え方が割れるので、以下の数字は「およそ」つきで読んでほしい。では、発表に移る。

死者数ランキング・トップ5

  1. タイタス・アンドロニカス約14人 断トツの優勝。処刑、生贄、闇討ち、手打ち、そして2名はパイに調理されて親に供される。シェイクスピア最初期の復讐悲劇で、当時流行の残酷劇に若手が全力で乗った結果、こうなった。
  2. リチャード三世約11人 THEME 04の主役が量産した死者たち。幼い王子二人を含む政敵の連続粛清。特筆すべきは兄クラレンスで、ワインの大樽に突っ込まれて溺死という、酒好きには何とも言えない最期を遂げる。
  3. リア王約10人 終幕のたたみかけがすさまじく、最終場だけで主要人物が5人退場する。毒殺(姉が妹を)、自害、決闘、絞殺、そして悲しみ。舞台に生存者がほとんど残らない。
  4. ハムレット約9人 開幕前の先王を含めて9人。最終場は毒の見本市で、毒剣、毒杯、毒剣の返し、と毒だけで4人が数分で死ぬ。「デンマーク王家、ほぼ全滅」で幕。
  5. マクベス約8人+戦死者多数 王、従者、親友、政敵の妻子、と着実に積み上げる。ちなみに主人公夫妻はどちらも眠り関連で壊れていく(THEME 08参照)。妻の死は舞台外で、死因は明示されない。

次点は『アントニーとクレオパトラ』(約6人。自害率が異様に高い)、『ロミオとジュリエット』(6人。恋愛悲劇なのに死者の半分は喧嘩沙汰だ)、『オセロー』(5人。少数精鋭で、そのぶん一人ひとりが重い)あたり。逆に喜劇は見事なもので、『十二夜』も『お気に召すまま』も『夏の夜の夢』も死者ゼロ。ジャンルの約束事(THEME 02参照——喜劇は結婚で終わり、悲劇は死で終わる)は、数字の上でもきっちり守られている。

死因別アワード

数だけでは見えてこないものがあるので、死因別の表彰も行いたい。

最多死因賞:刺殺。剣の時代なので当然ではあるが、決闘、闇討ち、戦死、自害まで含めると圧勝。次点は毒殺で、こちらは『ハムレット』が一作でランキングを歪めている。

最も有名なト書き賞:熊。『冬物語』(THEME 02)の登場人物アンティゴナスの退場ト書き——「退場、熊に追われて(Exit, pursued by a bear)」——は、シェイクスピア全作品でいちばん有名なト書きだ。悲劇から喜劇へ物語が転調する、ちょうど蝶番の位置に置かれた死で、初演で本物の熊を使ったのか着ぐるみだったのかは、今も愛好家の楽しい論争になっている。

最も静かな死賞:悲しみ。シェイクスピア劇では、人は悲しみでも死ぬ。ロミオの母は息子の追放を悲しんで死に、『アントニーとクレオパトラ』の武将イノバーバスは、主君を裏切った自分を恥じて、戦傷もないまま夜の陣地で心臓が止まる。そして『冬物語』の幼い王子マミリアスは、母が裁かれるのを悲しんで死ぬ——この劇の奇跡の結末で、唯一取り消されない死だ(THEME 02で見たとおり)。剣も毒も出てこない死が、いちばん重いところに置かれている。

問題作賞:パイ。前述のタイタス。詳細は書かないが、ギリシャ神話(ピロメラ譚)由来の由緒正しい残酷描写ではある。由緒が正しければいいという話でもない。

まじめな考察——初期は「量」で、後期は「一人」で殴る

さて、数えて終わりでは集計係で終わってしまうので、最後に少しまじめな話を。ランキングを年代順に並べ替えると、面白いことが見えてくる。死者数の多い劇ほど、キャリアの初期に固まっているのだ。優勝のタイタス(1590年代初頭)と準優勝のリチャード三世(同じく初期)は、いわば「量で殴る」時代の作品だ。死体が積み上がるほど悲劇は重くなる、という設計思想である。

ところが円熟期に入ると、設計が変わる。『オセロー』の死者はわずか5人だが、そのうちの一人——無実のまま夫に絞め殺されるデズデモーナ——の重さは、タイタスの14人分を軽く超える。『リア王』は死者数こそ多いものの、観客の心を折るのは実質、最後のたった一人だ。老王が末娘コーディリアの亡骸を抱いて現れる場面。あれだけの死体の山の頂上で、観客が泣くのは一人の死なのだ。

つまりシェイクスピアは、キャリアのどこかで発見したのだと思う。悲劇の重さは死者数に比例しない。観客がその人をどれだけ知っているかに比例する。初期の彼は死の数を増やし、後期の彼は死ぬ人と観客の関係を深くした。死者数ランキングとは、裏返せば、一人の劇作家が「死の描き方」を学んでいった記録でもある——集計してみると、そんな真面目な結論に着地してしまった。パイの話で始めた記事としては、われながら上出来だと思う。

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