COLUMN 01

ロミオとジュリエット、実は5日間の話
——日曜に出会って、木曜に死ぬ

タイムラインで読みなおす、世界一有名な恋

『ロミオとジュリエット』と聞いて思い浮かぶのは、「永遠の愛」だろう。時を超える恋の代名詞であり、結婚式の定番の引用元でもある。

ところが台本を開いて、時間の手がかりを拾いながら読み直すと、あることに気づく。この物語、出会いから二人の死まで、たった5日しか経っていないのだ。しかもシェイクスピアは、曜日や時刻の台詞をわざわざ細かく書き込んで、観客がこの速度に気づくよう仕向けている。今回は肩の力を抜いて、世界一有名な恋を時系列表で読みなおしてみたい。

タイムラインを再現してみる

【日曜】出会う。しかも一目惚れから14行でキス

物語は日曜の朝、両家の乱闘から始まる。その夜がキャピュレット家の宴会だ。ロミオはここでジュリエットと出会う——のだが、二人の出会いの速度がすでにすごい。初対面の会話が始まってから最初のキスまで、台詞にしてわずか14行。しかもこの14行、二人の台詞を合わせるとソネット(14行の恋愛詩)が完成する仕掛けになっている。出会った瞬間に、二人で一篇の詩を作ってしまう相性の良さ。シェイクスピアなりの「運命の相手」の表現だ。

宴のあと、ジュリエットは相手がモンタギュー家——親の仇の家の一人息子だと知る。

My only love sprung from my only hate! / Too early seen unknown, and known too late!

私のたったひとつの恋が、たったひとつの憎しみから生まれてくるなんて。知らずに見そめるのが早すぎて、知ったときには遅すぎた。(拙訳)

『ロミオとジュリエット』第1幕第5場

同じ夜、例のバルコニーの場面。そしてここで、二人はもう結婚の約束までしてしまう。出会いから結婚の約束まで、数時間である。

【月曜】結婚する。そして人を殺して追放される

月曜の朝、ロミオはロレンス修道士に駆け込み、その日の午後にはもう二人は秘密の結婚式を挙げている。出会いから結婚まで、約24時間

ところが式の直後、街でジュリエットの従兄ティボルトがロミオの親友マーキューシオを殺し、逆上したロミオがティボルトを殺す。ロミオは即日、追放処分。結婚式と殺人と追放が、全部同じ月曜に起きる。その夜、ロミオはジュリエットの部屋で一夜を過ごし、夜明けとともに街を去る。結婚生活は、実質この一晩だけだ。

【火曜〜水曜】親が勝手に結婚を決め、ジュリエットは毒をあおる

火曜、事態はさらに加速する。娘の悲しみ(本当はロミオとの別れが原因だが、親はティボルトの死を悼んでいると思っている)を心配した父キャピュレットが、良かれと思って、貴公子パリスとの結婚を木曜に設定してしまうのだ。すでに結婚しているジュリエットに、重婚が命じられたことになる。拒むと父は激怒し、「木曜に教会へ行かないなら親子の縁を切る」とまで言う。

追い詰められたジュリエットはロレンス修道士を訪ね、「42時間だけ死んだように見える薬」を受け取る。仮死状態で葬られ、目覚めたところをロミオに連れ出してもらう——という計画だ。彼女は水曜の夜(結婚式は前倒しされて木曜の朝になっていた)、独りでこの薬を飲む。14歳になる2週間前——まだ13歳の少女が、目覚めたら墓の中という薬を飲む場面である。

【木曜】手紙が届かず、二人とも死ぬ

木曜の朝、ジュリエットは「遺体」で発見され、その日のうちに一族の墓に納められる。一方、計画を知らせる修道士の手紙は、疫病の検疫で足止めされてロミオに届かない。届いたのは「ジュリエットが死んだ」という知らせだけ。ロミオは毒薬を買い、夜の墓所へ走り、眠っているだけのジュリエットの傍らで毒をあおる。直後に目覚めたジュリエットは、ロミオの短剣で後を追う。

日曜に出会い、月曜に結婚し、木曜の夜に二人とも死ぬ。正味4日半。これが「永遠の愛」の物語の、実際の長さだ。

この速度は、書き損じではなく主役である

で、ここからが本題だ。この異常な速度は、若書きの粗ではない。シェイクスピアが原作から意図的に作り出したものだ。この劇には種本があって(アーサー・ブルックの物語詩『ロミウスとジュリエットの悲話』)、そちらでは物語は9か月かけて進む。シェイクスピアはそれを5日に圧縮した。しかも前述のとおり、曜日の台詞をわざわざ散りばめて、圧縮したことが観客に伝わるようにしてある。

なぜか。答えはたぶん、劇中に書き込んである。バルコニーの場面、恋の絶頂で、ジュリエット自身がこの恋の速度に不安を漏らすのだ。

It is too rash, too unadvised, too sudden; / Too like the lightning, which doth cease to be / Ere one can say 'It lightens.'

あまりに性急で、あまりに無分別で、あまりに突然すぎる。まるで稲妻。「光った」と言い終わる前に、消えてしまう。(拙訳)

『ロミオとジュリエット』第2幕第2場

稲妻のようだ——言い終わる前に消えてしまう。5日間の物語であることを、いちばん正確に予言しているのは、恋の当事者本人なのだ。そして結婚式の直前には、ロレンス修道士が今度ははっきり警告する。

These violent delights have violent ends ... / Therefore love moderately; long love doth so.

激しすぎる歓びは、激しい終わり方をする。……だから、ほどほどに愛しなさい。長続きする愛とはそういうものだ。(拙訳)

『ロミオとジュリエット』第2幕第6場

「ほどほどに愛しなさい」。正論である。そして劇場でこの台詞に説得された観客は、たぶん一人もいない。観客が観に来ているのは、ほどほどではない愛のほうだからだ。

5日間だから、永遠になった

タイムラインを知ると、この劇の見え方が少し変わると思う。よく言われる「二人が数日待てば悲劇は避けられた」というツッコミは、そのとおりだ。手紙があと半日早ければ。ロミオが墓であと数分待てば。でも、待てないことこそがこの二人であり、この恋なのだ。速度を取り除いたら、『ロミオとジュリエット』には何も残らない。

それに、と僕は思う。この恋が「永遠の愛」の代名詞になれたのは、5日間だったからこそではないか。THEME 02(結婚は悲劇なのか)で見たとおり、シェイクスピアは結婚生活の「その後」——四月の恋が十二月に変わっていく過程——を容赦なく書ける人だ。ロミオとジュリエットには、その「その後」が永遠に来ない。二人の恋は、稲妻の光り方しか知らないまま封印された。冷める時間ごと、物語から削除されたのだ。

永遠の愛とは、長く続いた愛のことではなく、終わる前に時間の外へ出てしまった愛のことなのかもしれない。そう考えると、あの5日間の慌ただしさが、少しだけ違って見えてくる。

← テーマ一覧にもどる